改革拒む伏魔殿マイクロソフト 次期CEOの「豪腕」頼み

「候補者を5人程度に絞った」「有力なのは2人」――。米マイクロソフトの後継CEO(最高経営責任者)選びが大詰めを迎え、米国では様々な予測が飛び交っている。現在のスティーブ・バルマーCEOが今年8月に「1年以内の退任」を表明し、早ければ年内、遅くとも来春までに後継者が決まる見通しだ。人選は霧の中だが、ひとつ断言できる。誰がCEOになってもいばらの道は続く、ということだ。

 今のマイクロソフトは、変化や改革を拒む抵抗勢力が巣くう「伏魔殿」である。誰がCEOになろうとも同社が抱える問題を解決するのは至難の業だろう。長年の成功体験の影で閉鎖的な文化が社内に染みついているからだ。同社の再浮上には、こうした空気を一掃できる次期CEOの豪腕に頼るしか

■時代の流れが読めないトップは退場に

 「(マイクロソフトの)CEOは38年の歴史上でわずか2人しかいない。スティーブ(バルマー)と私の2人が愛するマイクロソフトにふさわしい人を、ふさわしい時期に選ぶ」――。

 ビル・ゲイツ会長が涙で声を詰まらせた。11月19日にワシントン州レッドモンドの本社で開いた株主総会でのひとこまだ。ゲイツ会長は集まった株主に対し特別委員会で進めている新CEO選びについて説明したが、その姿は晴れ晴れしさとはほど遠く、会社を巡る状況と後継者選定の厳しさを物語っていた。

 2013年は米国を代表する企業のトップ交代が相次いだ。11月25日には米ウォルマート・ストアーズが国際部門トップだったダグ・マクミロン氏を新CEOに指名。10日には米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)が次期CEOにメアリー・バーラ上席副社長を選んだばかりだ。

 トップの交代が続くのは偶然ではない。急激に進むIT(情報技術)化がすべての業種に地殻変動をもたらしている。新しい技術・市場のトレンドに乗り遅れた企業は、歴史の長短にかかわらず容赦なく大波にのみ込まれ、流れについていけないCEOは市場から退場を迫られている。

 「ウィンテル」と呼ばれた米インテルとマイクロソフトの2社もその不名誉な代表格だ。モバイルへの対応が遅れたことで存在感が急速に低下。インテルは5月にポール・オッテリーニCEOが退き、ブライアン・クルザニッチ氏に交代。マイクロソフトのバルマー氏退任も、この流れに続くものだ。

 米国の株式相場はバルマー氏の退任を好材料と受け止め、低迷を続けていたマイクロソフトの株価は発表後に大幅に上昇した。ウィンドウズとオフィスのソフトウエア・ライセンスという90年代に作られた一昔前のビジネスモデルから脱却できない原因が、バルマー氏の経営手法にあると見ていた投資家が多いためだ。

 しかし、CEOひとりが交代して流れが大きく変わるかというと、事はそう簡単ではない。市場独占にも近い成功を治めた企業に共通する宿痾(しゅくあ)をマイクロソフトも抱えている。

■見えてこない新ビジネスモデル

 第1の問題は新しいビジネスを発掘する力を失ってしまったことだ。次期CEOが取り組むべき最大のテーマは、スマートフォンやタブレットなどモバイル・デバイスが台頭しパソコン市場が縮小傾向にあるなか、新たな収益源を見いだすことだ。しかも、ソフトウエアライセンスに匹敵する規模に短期間で育てなければ、投資家や株式市場の信任は得られない。

 インターネット検索では米グーグルにまったく太刀打ちできず赤字を垂れ流している。モバイル分野に関しても、完成度の高いソフトウエアとハードウエアの組み合わせで利益率の高い市場を独占する米アップルと、Androidを無料で提供するグーグルに挟まれ迷走している。

マイクロソフトのCTO職を5年で離れたレイ・オジー氏
 起死回生の一手として、フィンランドのノキアからスマートフォン部隊を買収することで合意した。しかし、モバイル市場での存在感を維持するための苦肉の策であり、業界関係者の多くは「とき既に遅し」と考えている。そもそもアップルと真っ向から対抗する戦略がマイクロソフトにとって最適解とは考えにくい。

 唯一好調なのは、シェアポイントやオフィス365といった企業向けのクラウド・サービスだ。だが、このビジネスがソフトウエアライセンスをしのぐビジネスに成長するには、少なくともまだ数年はかかる。

■「外様」に強い拒否感

 第2の課題は、この十数年間にマイクロソフト内部で網の目のように張り巡らされた排他的で保守的な社員のネットワークを壊すことだ。

 あえて日本語にすれば「派閥」や「社内政治」となろうか。社外からは見えにくいが、これは非常に根が深く厄介な問題だ。あまりにも密接な人間関係が、外から来た新しいリーダーに拒絶反応を示し、既存のビジネスルールを変えるうえでの抵抗勢力として機能してきた。

 もちろん日本でいう「大ボス」をみこしで担ぎ上げるような派閥とは異なる。マイクロソフトには伝統的に技術面で優れたエンジニアが尊敬を集める風土がある。そこで新しい製品・サービスを作り上げ、ビジネスとして成功させた人が評価され昇進していく。

 能力と努力の相乗効果でプロモーションしていく社内システムは、米国企業の中では非常に優れた仕組みであろう。だた、同じ部門内で働く人々の間では極めて強い信頼関係が出来上がっているため、結果として「社内で成功して高い地位に昇った人が絶対的存在」「部門トップには誰も意見をいえない」という硬直的な文化を作ってしまった。

 ロータス・ノーツの生みの親である伝説のエンジニア、レイ・オジー氏もそうした独特のカルチャーにはじかれた1人だ。

 2005年、バルマー氏はオジー氏をマイクロソフトのCEO後継候補として迎え入れた。同氏はクラウドサービスの「ウィンドウズ・アジュール」の立ち上げなどを任されたが、社内の拒絶反応に遭い、全くリーダーシップを発揮することなく2010年10月に会社を去った。

 バルマー氏はオジー氏に、技術のトップである最高技術責任者(CTO)の肩書を与えた。だが、所詮は「外様」であり、社内で長年活躍してきたエンジニアたちの尊敬や信頼を勝ち取ることはできなかったのだ。

 閉鎖的な文化の代表格としてあえて名指しをするならば、ウィンドウズ7とウィンドウズ8の開発責任者を務めたスティーブン・シノフスキー氏だろう。

 そんなシノフスキー氏も、昨年のウィンドウズ8完成直後に、バルマー氏に追い出されている。皮肉なことに、バルマー氏自身も会社の閉鎖性を体現する1人と言ってもいい。

 こうした「文化」を引き継ぐ歴代の名エンジニアたちが、同社の中枢に数百人規模で居続けており、今も重要な役割を果たしている。CEOひとりが変わったくらいでは、まったく風通しがよくならないことは容易に想像できる。これこそが、マイクロソフト再生への最大の障害なのだ。

 IBMのように官僚的で政治力がモノをいう会社になってしまったのか――。ゲイツ氏がCEOの座を離れた際、彼の父親が一番に懸念したのは、歴代の優良企業が踏んだ轍(てつ)をなぞろうとしていることだった。それが今、現実になっている。

■社外から選ぶのが妥当だが……

 もちろんバルマー氏も手をこまぬいているわけではない。

米マイクロソフトの2013年7~9月期の製品部門別売上高と損益。( )内は前年同期。単位:億ドル
売上高 損益
ウィンドウズ部門 45.81(44.11) 22.42(28.18)
サーバー&ツール部門 50.52(45.53) 20.26(17.39)
オンライン・サービス部門 8.72(6.97) △3.21(△3.64)
ビジネス・アプリケーション部門 59.91(56.90)38.59(38.39)
エンターテインメント&デバイス部門 20.70(19.47) △0.15(0.21)

 退任発表の直前に、それまでの製品別の縦割りから、OS・デバイス・アプリケーション・クラウドという4分野のエンジニアリング部門と、これらの製品やサービスを横断するマーケティング部門や事業開発部門などで構成する形に大幅に組織を再編した。

 各部門内に個別に置いていたCFO(最高財務責任者)やCMO(最高マーケティング責任者)といった役職も廃止して独立採算制をやめ、製品別の収支を越えて最適な戦略が取れる体制に変えた。

 この新体制を指揮するCEOの候補としては、各新部門のトップの中から選ぶ内部昇格に加え、米フォード・モーターのCEOアラン・ムラーリー氏のような「再建請負人」を社外から招くことも検討しているようだ。

 教科書的にいえば、企業文化を根本から変えるには「バルマー氏の後継者は外部から連れて来るべきだ」というのが正解だろう。

 だが、外部から招いたCEOがマイクロソフト内部に根深く巣くう派閥の殻を打ち破るのは容易ではない。かといって、内部昇格でCEOを選んでは何も変わらない。まさに内憂外患の状況が人選を難しくしている。

 どんな企業であれ、ビジネスモデルと文化を根本から180度転換するのは簡単ではない。成果を得るまでには時間もかかるし、大きな痛みも伴う。次期CEOに求められる資質は幾つもあるだろうが、あえて一つをあげるならば、重責に耐え、改革をなし遂げられる「比類なき豪腕」だろう。取締役・株主も一定の形が見えてくるまでその人物を信頼し続ける忍耐力を持つしかない。

 パソコンを世界に普及させ、政府と独占禁止法を巡り激しく対立したほどの権勢を誇ったマイクロソフト。一時代を築いた会社を「ぶち壊す」のはそれほど大変な仕事なのだ。

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