マイクロソフト、ノキア買収の愚

(2013年9月4日 Forbes.com)

 スティーブ・バルマー最高経営責任者(CEO)が12カ月以内に退任すると発表したおよそ1週間後、米マイクロソフトは72億ドル(約7190億円)を投じてフィンランドのノキアの携帯電話とタブレット(多機能携帯端末)事業を買収すると発表した。CEO交代でマイクロソフトが大きく変わるのでは、と期待した人々にとり、これは大きく膨らんだ風船に針を刺すようなニュースだった。
 パソコン販売が世界的に10%近い落ち込みを見せるなか、マイクロソフトの将来が危うくなっているのは誰の目にも明らかだ。途上国市場ではパソコンから携帯機器への移行が、米国以上の速度で進んでいる。しかもマイクロソフトは携帯市場ではひたすら負け続けてきた。市場参入が遅く、しかも製品には市場を一変させる力がなく、米国でのシェアはわずか3%にとどまっている。
■ウィンドウズ8で市場を変えようともがく

 厳しい現実にもかかわらず、マイクロソフトはノキア買収によって基本ソフト(OS)「ウィンドウズ8」を軸とする基本戦略に“倍賭け”し、社運を賭け続けることになった。

 マイクロソフト幹部からノキアCEOに転じたスティーブン・エロップ氏が、ウィンドウズ8支持の姿勢を明確にして以来、ノキアのシェアは40%から15%に縮小した。米HP、台湾の宏碁(エイサー)、米デルなどマイクロソフトのエコシステムを採用した企業でウィンドウズ8搭載機器の発売が遅れるなか、ノキアは「ウィンドウズフォン」というちっぽけな市場で90%のシェアを握る。このため今回の買収により、マイクロソフトは既に衰退しつつあるOS事業を守り、拡大していくために多額の投資をする責務を抱え込むことになる。

 バルマー氏率いるマイクロソフトが最もやりそうなことは、米アップルの「iOS」と米グーグルの「アンドロイド」というマーケットリーダーとの勝ち目のない戦いに、さらに多くの経営資源を注ぎ込むことだと私は今年1月の記事で予測した。スカイプへ85億ドル(約8489億円)、電子書籍端末「NOOK(ヌック)」へ4億ドル(約399億円)の投資に続き、今度は赤字のノキアに72億ドルを投じるという。3万2000人のノキア従業員が加われば、マイクロソフトの損失は確実に膨らみ続けるだろう。マイクロソフトは膨大な現金を抱えているとはいえ、このようなペースで使い続ければ、長くはもたないだろう。

■ノキア買収でもアップルになれない
 今回の買収により、マイクロソフトはアップルのようになるという見方もある。iPhone(アイフォーン)を擁するアップルのように、ハードウエアとソフトウエアを併せ持つことになるからだ。そこには近い将来、売上高も利益率もアップル並みに――という期待がある。

 だが残念ながら、何カ月も前に米モトローラを買収したグーグルの例からも、ハードウエア会社を買収さえすれば売上高と利益をアップルのように伸ばせるといった単純な話ではないことがわかっている。しかもアンドロイドフォンは、ウィンドウズフォンよりはるかに人気があるにもかかわらず、である。単にマイクロソフトとノキアを統合しても、ウィンドウズフォンの登場はあまりに遅く、しかもそれほど魅力がないという事実は変わらない。

■エロップ氏を次期CEOにするのは間違い
 ノキアを買収するのは、エロップ氏をバルマー氏の後釜に据えることで、マイクロソフトの後継者問題を解決するためであるという説もある。たしかにその可能性は高そうだが、そうだとすればスカウト費用としてあまりに割に合わない。エロップ氏をマイクロソフトCEOにする唯一の理由は経営手腕ではなく、過去にマイクロソフトに在籍していた経歴だけだ。だが経歴を見れば、エロップ氏をマイクロソフトCEOにするのは誤りであるという事実は明白である。
 2010年10月にエロップ氏がノキアCEOに就任した際、私はこの人事は失敗だと指摘した。エロップ氏はマイクロソフト寄りの戦略を採り、ノキアを「マイクロソフトの販売店化」するなど、めちゃくちゃにしてしまうだろう、と。それ以降、ノキアの売上高は落ち込み、利益は消えうせ、株主は反旗を翻すなど散々で、唯一の好ましいニュースがこの死にゆく会社をマイクロソフトに売却するという話題だけだった。これはCEOの実績として、すばらしいとは言い難い。

 現在のエロップ氏の職務は、ウィンドウズを搭載した携帯機器の販売を増やすことだ。マイクロソフトCEOになっても、それを自分の主な責務だと思い続ける可能性が高い。バルマー氏がまさにそうだ。

 両CEOともに市場が既に変化し、(アップル、グーグルの)マーケットリーダー2社はブランドイメージ、製品、クラウドサービス、アプリ、デベロッパー、パートナー、流通、市場シェア、売上高と利益など、あらゆる面ではるか先へ行ってしまったという事実を認識する能力が欠如しているようだ。いまやマイクロソフトが2社に追いつくのは不可能である。

■投資家らは戦略転換の必要性を認識

 買収が発表された直後、短期トレーダーがマイクロソフトの株価を押し下げたのは当然だ。バルマーCEOとマイクロソフトの取締役会が、まだ負け戦を続けようとしているのは明白だ。いまだに「ウィンドウズ」とワープロや表計算に使う「オフィス」事業で、過去の栄光を取り戻そうと懸命なのだ。市場アナリストの多くは今回の買収を、ウィンドウズ8に社運を賭けようとするバルマーCEOの最後の大勝負と見ている。だがこの勝負は、月を追うごとに旗色が悪くなっている。

 マイクロソフトは死んではいない。再生する能力がないわけでもない。だが取締役会が会社の方向性を抜本的に変え、ウィンドウズ8(およびその関連機器)への投資を増やすのではなく減らし、2020年にマイクロソフトが顧客にとってきわめて重要な会社になるためのビジョンを作らないかぎり、再生は見込めない。これまでのところ、打つ手はすべて間違っている。

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